サーフカヤックへのアプローチ

■アプローチ
2007年に開催される第9回世界選手権スペイン・ムンダカ。2年に1度の開催ですから、サーフカヤックが競技スポーツとして始まってからまだ18年です。皆さんにとって、サーフカヤックは最も新しく、ほとんど目にすることも無く、ましてや実際のボートや映像、ライディングシーンなど、世界の情報も耳にする機会が少なかったと思います。ところが、サーフカヤックが歴史的には古く、昔からサーフゾーンを行き来できるスキンカヤック(皮張りの舟)がデザインされ存在し、一つの独立したサーフクラフトであったという事を改めて記述しておきたいと思います。

「先人達は、海という大自然のどんなコンディションにも耐えられるようなカヤックを設計し、また、それを操る高度なテクニックを生み出していたと言うことです。かつて、ベーリング海峡を吹き抜ける強風と荒波の環境下で狩猟をしていたキング・アイランダーは、永年の経験から危険なサーフゾーンを越え、また海岸に帰艦する時のランディングテクニックとその様なラフコンディションに耐えられるカヤックの構造とデザインを生み出していました。そのサイズは、長さ4.42m、幅62cm、マルチチャイン、バウは波に突っ込まないように反り上がっており、強度アップのためにリブの間隔を狭くし、デッキビームが自然な曲線を描くようになっている。そして、もう一つ注目するところは、わずか18kgの重さであること。まさしく、“現代のサーフカヤックのコンセプト!”違いは、アザラシの皮が現代化学を駆使して開発されたカーボン、ケブラーに代わったと言う点だけです。」

ここで歴史に触れた理由は、3話に渡り、私の経験からサーフカヤックを話してきましたが、私には解説しきれないほど優れた性能を持っているということを知って頂きたいからです。
読者の多くは、リバーカヤック愛好者の方々と思います。長年、川に親しんでこられた人にとって、海への興味はどのように抱かれているのでしょうか。私は、リバーパドリングの経験がありません。30年以上海に関わってきました。自分の青春時代をボードセーリング(ウィンドサーフィン)で過ごし、実用書の著書もし、長い間それに没頭していました。8〜10mを越えるクロスオンショアの風を待ち、サーフィング、ジャンピング、ターンニング、、、、風という自然のエネルギーをセールに受け、プレーニングするそのスピードにアドレナリンが放出する。その道具とライダーの進化たるや速いテンポで目を見張るものでした。その過程を見、体験した自分には、サーフカヤックが何か重なるものを感じます。その後、シーカヤックに出会いますが、荒れた海しか知らなかった私にとって、シーカヤックでサーフィングすることの魅力に目覚め、ボードセーリングで体得したテクニックをシーカヤックに活かし、2000年にカリフォルニア・エルグラナダのマーヴェリックでACA(アメリカンカヌー協会)オープンウオーターコースタルカヤックのインストラクター認定試験を受けたのです。3日間の試験の中でサーフィングの科目があり、ここで自信を付け、帰国後、益々サーフィングに夢中なり、それから4年後にサンタクルーズの大会にサーフカヤックで参戦しました。世界のトップライダー達の中にはリバーカヤックのフリースタイルやスラロームから転向してくる人が多く見られましたが、シーカヤックから入って来た人は少なかったですね。では、サーファーからの転向はどうでしょうか…? 私は聞いたことがありませんが、世界にはいるのではないでしょうか。 以前にも触れたように、もともとリバーカヤックでオーシャンウェーブにトライしたのが始まりのスポーツなので、この傾向は理解できます。しかしながら、始まったばかりのサーフカヤック、、、サーフカヤッキングと言うべきか、カヤックサーフィングと言うべきか迷ってしまいますが、いずれにせよ、海をフィールドとした新たな一つの独立したスポーツとしてとらえられるのではないでしょうか。つまり、テクニックとクラフト、ギアーが更なる進化を遂げるであろうこのスポーツにトライするには、これまでの先入観を捨て、新たな分野への挑戦と考えられるからです。

■エリア
サーフカヤックの世界選手権、ワールドカップなどが開催される場所は、ボードサーフィンの世界選手権が開催されるエリアで行われています。カリフォルニア・サンタクルーズのスチーマーレーンやコスタリカのボカブランカ、アステロス・オエステやスペインのムンダカなどが有名なサーフポイントです。ちなみに、サンタクルーズのスチーマーレーンでは、毎年大会が開催されますが、大会期間中の3日間のみ借り切って行われており、事前に現地入りして練習することが出来ないのです。ここには、サーファーズミュージアムが有り、サーファー像があるほどのサーファー天国なのです。ここで大会が開催できるのは、US・WESTチーム代表メンバーでもあり、春号にも紹介したサンタクルーズ在住デニス・ジャドソンの存在。コスタリカ・ハコビーチでは、ニール・カーンやトカの功績があることを忘れてはなりません。国内では、1960年代以降に普及したサーファーの人口は数知れないほど多く、ちなみにその10年後のには、ウィンドサーフィンが、それぞれ年間を通して親しまれています。ハワイが起源のサーフィンは、1908年にオーストラリアにクラブが出来たのがスポーツとしてのサーフィンの始まりで、スポーツとしての文化が確立されています。日本では、現在のところ全くと言っていいほど知られていないサーフカヤックを受け入れてもらうには長い時間が掛かることは必至でしょう。当然のことながら、サーファーのエリアでライディングすることは出来ませんね、サーファーが原付自転車にたとえると、サーフカヤックは自動車のようなもの、それに加えてヘルメットをかぶりパドルを振り回す、、、このような装備は、無防備のサーファーにとってみれば恐怖でしょう。クラッシュすれば大きな事故になることは避けられません。リーフ/暗礁、岩礁、ブレークエリアなど、サーファーが嫌う場所、そしてサーファーが多い曜日や時間帯を避けるなどして、リスクも伴いますが工夫が必要ですね。サーフカヤックはそれが出来るクラフトです。グリーンをライドするボードサーフィンと大きく異なる点は、どんなコンディデョンでもライディングできるところにあります。つまりプレイエリアが非常に広いという点が大きな特長です。ほとんどのエリアを歴史あるボードサーファー達が占めているのですから、そこには暗黙のルールとマナーが存在しており、これには従わなくてはなりません。同様にリバーの世界でもあるはずです。私は、常に謙虚さを忘れず、相手を尊重しながら時間を掛けてサーフカヤックを認知してもらうように日頃から心がけているつもりです。いつしか、本来歴史を持つサーフカヤックが、尊重されるスポーツに発展してゆく日が来ることでしょう。
私はこんな風に考えます。
『カヤックは海で生まれ(歴史)、川で育った(競技・テクニック)。カヤックの歴史を知り、サーフィンの歴史に出会った時、波という新たな自然界(フィールド)に魅了されてゆく。』

■ルールとマナー
基本のルールはサーフィンの国際競技規定、The Assotiation of Surfing Professionals(ASP)のボードサーフィンのルールを基準に行われます。ウェーブセレクション、テクニカル、アーティスティック、ライディング距離、フィニッシュの5つをワンライド10ポイントで評価し、ワンヒートに対してベスト2ウェーブのスコアーで競う。選手たちは、ワンヒートに最低3ウェーブ以上のライディングをしなくてはなりません。これは、競技のルールなのですが、同時にマナーの基準にもなっています。なぜなら、1つの波に乗れるのは1人だからです。( One wave one rider) ここが良く理解して欲しい重要なポイントです。優先権と非優先権が発生します。あえて厳しく言いますが、これを無視する人、または知らない人は乗る資格がありませんので良く学習して下さい。先に話したように、グリーン以外のどんなコンディションでもライディング出来ると言いましたが、これを勘違いして秩序も無く、無作為に乗りまくっちゃう!・・・なんてことは決してしないでほしいです。また、パドルといってもサーファーのパドル(手)とは異なり、推進力のある大きなパドルを使うため、容易に割り込む違反行為(Snaking)を行い勝ちです。パドルアウトの際に、後からライディングする人のコースを妨げてはいけません。ドルフィンスルーが出来ないため、クラッシュすれば大きな事故になりかねません。また、ライディングコースを瞬時にしっかり読み、予測して充分なスペースを与えなくてはなりません。そして、“前乗りの行為”、優先権を持ったライダーの前を乗る大変危険な行為です。いずれにしても、高度なテクニックと周りを見回せるだけの余裕が必要であることが理解できると思います。



by T.Nagaoke