海のF1・サーフカヤック/Surf-Kayak

■道具の進化
1991年第1回世界選手権がスコットランド北端のベントランド海峡・サーソーで開催された。その頃からイギリスのMega社がグラスファイバー製のサーフカヤック“ジェスター”を初めて製作し、1993年第2回世界選手権カリフォルニア・サンタクルーズでデビューした。さぞかし凄いスピードでオーシャンウェーブを駆け巡ったに違いない!その時の観客達の驚いた姿が想像できる。それから15年の歳月が経ち、当然のことながら道具は更なる進化を遂げて来た。もとは、ロデオ/フリースタイルのカヤックでオーシャンウェーブにチャレンジしたのが始まりで、先ず、最初に波乗りの効果を引き出すための改良を施されたのが、ハル/ボトムのデザインであった。リバーのホールでパフォーマンスするのとは異なり、オーシャンウェーブの場合は、波が絶え間なく変化しながら移動するため、その波の速さについてゆかなくてはならない。そこで、ボトムの形状をフラットに近づけて、更にカヤックを長くすることでスピードを引き出すことに成功した。1997年の第4回世界選手権コスタリカでは、グラスファイバー製が主流になり、Wold Ski, Mike Johnson Boats, Necky Boats, Mega などメーカーも増えてきた。そして、今までのただ波を滑ることからターンなどのパフォーマンスやパドルサーフィンと同様に波のポイントを押さえてロングライディングをしながら複数回のアクションを加えるような滑りに変わっていった。そのため、波をしっかりととらえて、鋭いターンを生み出すためにボードデザインは更に進化を遂げフィンを装着するようになり、ボトムの形状はサーフボードに限りなく近づけていった。2001年第6回世界選手権サンタクルーズでは、個人のインターナショナルクラッシックとハイパフォーマンスのカテゴリーが男子、女子、ジュニアー、マスターズ別に加えられた。こうしてハイパフォーマンスクラスが出来たことにより、益々ボードのデザインは進化する。長さが短くなり、細かなターンやサーフィンマヌーバーを取り入れられるようになる。2005年のコスタリカではエアリアルやリバーシーンが多く見られた。現在、各ボードメーカーやデザイナーが最も注目していることは、ウェーブスキーのデザインを取り入れ、ハイパフォーマンス化とボードの軽量化、強靭さを兼ね備えたボードを生み出すことに躍起になっている。

■世界最新のサーフカヤック
2年に1度開催される世界選手権に標準を合わせてボードメーカーとボードデザイナーは最新のものを作り上げてゆく。その間に開催されるワールドカップやフェスティバル、セッションなどの機会にテストやインプレッションを重ね、モディフィケーションを繰り返し完成させてゆく。そんな時に最先端のニューボードに出会うことが出来る。ここで、最新のサーフカヤックをご紹介しましょう。

■MURKY社のサーフカヤック
The Reaction/リアクション
デザイナー;Vincent Shay/ビンス・シェイ
・長さ/7’5” ・テールロッカー/1.75” ・エントリーロッカー/9.25”  ・幅/25.25”
・2006年ワールドカップ優勝艇! 男子1位/Rusty Sage ラスティー・セージ、2位/Vince Shay ビンス・シェイ 女子1位/Kate Smith ケイト・スミス
・ 小柄な人向け(日本人の平均体型の方ならほとんどの人が合う)
・ ビギナーからエキスパートまで幅広い対応が可能な大変乗りやすい。

The Twist/ツイスト
デザイナー;Vincent Shay/ビンス・シェイ
・長さ/7’8” ・テールロッカー/1 3/4” ・エントリーロッカー/9”  ・幅/25”
・コンペティションなど経験を要する。

The Nightmare/ナイトメアー
デザイナー;Corran Addison/コラン・アディソン
・ 長さ/6’5” ウルトラショート 可変式のユニークなフィンとしっかりとしたバスケ
ット方シートも特徴。小回りが利き、アグレッシブなハフォーマンスが引き出せる。
・ パドラーウェイト98kgくらいまで(中・大柄な人向け)

The 88 /エイティーエイト
デザイナー;Preston Holmes/プレストン・ホーメス
・ 長さ/7’3”  
・パドラーウェイト98kgくらいまで(中上級者向け)

■Mega社のサーフカヤック
Reflex/リフレックス
・長さ/2.21m  最大幅/63cm  
・ パドラーウェイト82kgくらいまで( 小柄な人向け)

Impulse/インパルス
・ 長さ/2.33m 最大幅/68cm
・ パドラーウェイト105kgくらいまで(大柄な人向け)

Neutron/ニュートロン
・長さ/2.35m 最大幅/63cm
・パドラーウェイト95kgくらいまで(中柄な人向け)

■Wold Ski社のサーフカヤック
Super Nova/スーパーノバ
・長さ/7’  最大幅/26”  
・パドラーウェイト85kgくらいまで( 中柄な人向け)
・2005年のサンタクルーズでRusty Sage が1位

■デザイナーと職人
5月22日(月)私はトロントへ向かった。いささか飛行機の旅にはうんざりしていた。私は海外遠征へ行くたびに体調を崩す。週に3~4日、多い時で毎日海に居る自分にとって1週間以上の旅は体内リズムがむちゃくちゃ崩れてしまう。そして飛行機内の乾燥や“喰っちゃ寝”の繰り返しは特にしんどい!まして、伊豆から成田へ行くだけでも“遙か彼方”なのだ。ちなみにトロントのホテルを出てから伊豆の自宅まで23時間掛かった。戻ってから元のリズムに戻すのに大変だ。前回のコスタリカのレポートでもこれに似た話しをしましたね、、、こんな思いをしてまでも今回は行かなくてはならなかった。
今回の渡航の目的はカナダ・MURKY社のEd/エドとMariola/マリオラに会う為だ。
20年以上もスクォートを手掛け、その熟練された職人の手が自分のサーフカヤックために使われ、それを見るために遠路はるばるやって来たのだ。そこは、アメリカ合衆国とカナダとの国境に連なるスペリオル・ミシガン・ヒューロン・エリー・オンタリオの五つの大湖の中にあるオンタリオ湖とエリー湖、そして国境を流れるナイアガラフォールズの3点を結ぶ中心にある。
トロント・ピアソン国際空港に降り立ち、ニューボート2本を積めるようにシボレーのミニバンをレンタルし、オンタリオ湖に沿ってナイアガラフォールズへ向かった。落差50mを越し、700m以上の幅を流れ落ちる滝の迫力に魅了された。ここからわずか40〜50分の閑静なところに彼らは住んでいる。ようやく到着した!最初に出迎えてくれたのがリスやアライグマだった。裏の森からは鹿もやって来るそうだ。こんな環境で多くのボードが生まれたのだ。今回、頼んだサーフカヤックは、今年のワールドカップで優勝した「REACTION」とこの春に出来たばかりで、まだインプレッションが出ていない「TWIST」の2本。実際に完成したのが2日目に行った時だった。それまでシートやコーミング、最終仕上げに念が入っていた。”じらされた!“ って訳ではないのだろうけど、、、職人の気質のようなものを感じた。良いものを作り、完成するまでは商品として見せたくない。そして、見せるなら日中の明るい時に太陽の下でメタルフレークの微妙な輝きを同時に見せたい!と言うことだ。そして、その対面の時が来た。「想像通り。いや、それ以上だ!」それは、細部に渡り完璧だった。エドがデッキを押してみろ!と言うので押してみたところ、なんとハードデッキ、合成の素晴らしいこと、またその重さは本当に軽い!長旅の疲れなんか一気にぶっ飛んだ!!「俺の見る目に狂いはなかったぁ〜。」これが素直な感想である。この日の晩は、エドのパートナー(ワイフ)のマリオラお手製の料理とワインとカナディアンビールで夜遅くまで話は尽きなかった。

■デザインコンセプト
サーフカヤックは、競技スポーツです。
波の極限地点において、最も優れたスピード、パワーを持ったコントロール性を引き出し、それらのマヌーバーを同じ波の上を長く乗り続けながら最も大きく、良い波の上で行う。
たとえ90%以上のマヌーバーであっても同じ波の上でなければならない。(サーフィン哲学)そして、その評価基準は、The Assotiation of Surfing Professionals(ASP)のボードサーフィンの規則を基準に行われる。ウェーブセレクション、テクニカル、アーティスティック、ライディング距離、フィニッシュの5つをワンライド10ポイントで評価し、ワンヒートに対してベスト2ウェーブのスコアーで競う。選手たちは、ワンヒートに最低3ウェーブ以上のライディングをしなくてはならない。
世界のトップデザイナー達は、世界選手権やワールドカップで最高のパフォーマンスを発揮できるボートを作ること、つまり世界でトップになることだ。サーフカヤックは、そのボートに依存する比率がかなり高いと言える。パワフルなオーシャンウェーブと格闘するために、コックピットに体を固定し、自分の身を全てそのボートにゆだねる。先に話したように長さや重さ、ボトムの形状などによりその動きは著しく変わる。ライダーとボートは常に、互いに進化し続けるわけだが、「最高のパフォーマンスは最高の道具によって生まれる。」と言っても過言ではない。America’s Cup race/クラブ対抗の国際的外洋航海ヨットレース。国を挙げて巨額の予算を引き出し世界最先端のテクノロジーを駆使し作り上げた外洋航海ヨットと世界中から集めた最高のキャプテンとクルーによって競い合うレースは、企業争いとも言われ、そのデザインはレース当日まで極秘にされる。
Formula 1/国際自動車連盟が構造・重量・車輪・安定性など細目を規定する競争用自動車の最上位級で世界最速を引き出すためのマシーンを作り上げ、そのマシーンの性能をフルに引き出すことの出来る最高のライダーを選出しなくてはならない。自分もサーフカヤックのデザインを考えたことがある。世界選手権に出るためのボートを自らデザインし、それに乗る予定であったが予想以上に日数が掛かり途中で断念した。自分が最も信頼できるボートは、自分が理想とする設計・デザインコンセプトに基づく物に他ならない。だから世界のトップレーサー達は自分が乗りたいものを作り、叉はメーカーと共同で開発する。
自分がボートを選ぶ時は、デザイナーのコンセプトが自分の考えと一致した時が出会いの時になる。そして、激しくスピーディーな動きと衝撃に耐えられるために軽量且つ強固であること、マテリアルと製造ノウハウにかかってくる。今回、持ち帰ったMURKYのREACTIONとTWISTは、デザインもさることながら、コンプリートで8kgと9kgという軽量化にこだわっている。どこまで軽量化すれば良いかは、今のところ不明ではあるが、軽量の自分にとって13kgを越えるボートは乗りたくない!乗り比べてみるとその差は歴然と出てくる。フィッティングも重要な要素だ!各社さまざまであるが、自分はフォームシステムが好きだ。デメリットは、カスタムメイドになるために不慣れな人には困難な部分があるが、フィット感と安心感は最高だ!しかし、これも好みがあるようだ。実際、自分の場合、ニューボートに完璧なフィッティングを施すまでにかなりの日数を要している。でも、決して妥協はしたくないので、じっくり時間を掛けながら調整してゆく。

◆デザイナー兼ライダー/ビンス・シェイは、Megaのイントルーダー、PSのアクエリアスなどのデザインに関わり、2005年からMURKYのエドに製作をゆだね、REACTION
とTWISTを完成させた。
◆デザイナー/マイク・ジョンソンは、現在63歳。今でも週に2〜3回波乗りをしている。PSのサーフカヤックのデザインを手がけ、チームジョンソンで今まで多くの実績を残している。
◆デザイナー/ディック・ウォールドは、USA・Westの代表選手でオーナー兼デザイナー。彼とは2005年コスタリカ世界選手権にてマスターズで同じヒートだった。熟練したテクニックが素晴らしい。現役の選手であり、オーナー、そしてデザイナーである。世界でも三拍子揃ったライダーは少ない。
◆デザイナー/コラン・アディソンは、ライオットを経て、現在ドラゴンロッシに在籍。昨年、サーフカヤック・ウルトラショート1.92mのナイトメアーをMURKYのエドに製作を依頼し完成させた。
◆デザイナー/ランディ・フィリップスは、多くのMegaのサーフカヤックをデザインしている。

■フィン
ボートが進化している中、唯一遅れているのがフィンであると私は考える。海外遠征中に各国の選手達に聞いてみたところ、誰もが入手に苦労していることと、試行錯誤の真っ只中であることを知った。ちなみにカリフォルニアでサーフカヤック用のフィンを入手できるところは1箇所しかなく、それもオーストラリアから輸入するウェーブスキー用のものだそうだ。Megaからフィンが出ているが、サイズがワンデザインのため選べない。ちなみに自分は、ウィンドサーフィン用のフィンをサイズダウンし、好みのデザインを作って使用している。既に数多くのフィンを作り試している。おおよその傾向は掴め、その違いも実感している。フィンが及ぼす影響は大きく、その効果はボートとのマッチングにより大きく異なるものと言えよう。レーシングカーにたとえるなら、タイヤがフィンである。現在、ビンスがフィンのプロトタイプを作り上げている。特徴はフレキシブルな材料を使用することだそうだ。また、コランのナイトメアーに装着されているフィンのシステムはユニークだ。今後、フィンは重要なファクターであり、多くのライダー達が模索して行くことだろう。

by T.Nagaoke